2000年9月3日(日)

 正午過ぎに関西新空港を飛び立った日本航空の旅客機は、定刻通り17時30分にシンガポール・チャンギ国際空港に到着した。東南アジアのハブ空港でもあるチャンギ空港には、100以上のショップ、レストランなどがある。空港内には、その他、映画館や礼拝堂、それになんとカジノまであるという。

■キャンディで出迎えてくれたチャンギ国際空港

 日本との時差は1時間遅れでほとんど変わらない。空港は、いろいろな施設が整っているだけではなく、とてもきれいに清掃されている。搭乗客が歩く通路は、両側にシンガポールの国花であるランの花が飾られていて、はじめての東南アジアへの旅行だったが、第一印象はとても良かった。
 母と妻は、入国審査の担当官から歓迎のキャンディまでいただいた。日本ではまず考えられない。そのこともあってか、母も、「えらい感じのええ空港やなぁ」と一言。着いた早々、ご満悦の様子である。ただし、父と私には、キャンディは配給されなかった。
 さて、手続きを済ませてゲートをくぐると、現地ガイドのサリーさんという女性がすでに待っていた。35歳。「魔法使いのサリーです」と自己紹介した。少したどたどしいところはあるが、とても流暢に日本語を話す。空港には、私たち4人以外に、年輩のご夫婦が待っていて、合わせて6人のツアーであることを初めて知る。
 観光会社のチャーターしたマイクロバスに乗りこみ、ホテルには行かずに今日の夕食のレストランがあるロングビーチへと車を走らせる。サリーさんは、ガイドという職業をこえて話し好きのようで、車の中では、今から行く「シーフードレストラン」では、地元の「海鮮料理」をたらふく食べられるから楽しみにしてほしいとしきりと宣伝した。
しかし、当初、受け取った予定表には、確か「しゃぶしゃぶ食べ放題」となっていたはずで、少しおかしいと思っているうち、やがて車はロングビーチに到着した。
 ロングビーチは、たくさんの人たちでにぎわっていた。まだ真夏の暑さだったが、浜辺で泳いでいる人の姿はなかった。沖合には多くの船が停泊している。
海の近くには、ずらりとレストランがならんでいた。どの店も、店先には水槽が置いてあり、エビやカニなどが泳いでいた。新鮮な魚介類を売り物にしているようだ。そして、どのレストランも、オープンになっていて、日本で言えば、海水浴場の「海の家」といった雰囲気だ。

■冷房もない「海鮮レストラン」でカニと悪戦苦闘

 サリーさんは、そのなかの一つの店に案内した。店員と交わす言葉の意味はわからなかったが、どうも、はじめからこの店を予約しておらず、「飛び込み」ではいったようだ。考えてみれば、「海の家」に予約というのも変だ。
 ドアもなく窓もないこのレストランは、もちろん、真夏の暑さにもかかわらず、冷房などはなく、天井で粗末な扇風機がゆっくりと回っていた。
席に着くと、ほかに客もなく、ヒマそうにしていた店員がいっせいに私たちのテーブルに近寄ってきて、飲み物の注文を聞く。父と私は、地元の「タイガービール」をジョッキで、母はオレンジジュース、妻はココナッツジュースをそれぞれ注文した。
 ところで、今回のツアーでごいっしょすることになったご夫婦は、山田さんと言って、来年、定年退職をむかえるらしい。東大阪市に住んでいて、退職前の記念旅行のようだが、奥さんは、ご主人よりかなり若そうに見えた。お二人は、店員が飲み物をいろいろすすめたにもかかわらず、何もたのまなかった。「何か飲むと、お腹がふくれて、おいしいものがたくさん食べられへんから」と奥様が言う。
料理は、すべておまかせで、白身魚のスープ、エビのスープ、白身魚のフライ、チンゲンサイの炒め物などが次から次へと出てきた。それらはなんとかすべて平らげることができたが、その後に出てきたカニのチリソース炒めが、べらぼうに辛かった。しかも、ひどいことに、殻ごと炒めているカニの足にはほとんど身がついていなかった。
 悪戦苦闘しながら食べていると、冷房のない「海鮮レストラン」で汗がしたたり落ちてきた。これでは、本当に「海の家」ではないか!と、サリーさんに文句は言いたかったが、これもシンガポールなのだと思って、辛いカニの身を探しながら、ひたすら食べ続けた。

■1個500円也の月餅にビックリ

  食事が終わると、ふたたびバスに乗って、シンガポールでの滞在先となる「ヨークホテル」へとむかう。ホテルに到着したのは7時半頃だったが、ロビーの奥にあるオープン形式のレストランには、大勢の人たちが列をつくって順番を待っていた。すごい人混みだ。サリーさんによると、日曜日は、外食するのがこちらの習慣だそうで、たいていの家庭が、こうしてホテルなどで食事をするらしい。
ロビーには食べ物の臭いが充満していた。「海鮮レストラン」と同じ臭いだ。少し鼻を押さえたくなるその臭いのもとは、シンガポール独特の香辛料なのだろう。
 ホテルに荷物を置くと、休憩もせず、私たち二人だけで、シンガポールの繁華街、オーチャードロードまで歩いて出かける。日曜の夜のオーチャードロードは、若者たちでにぎわっていた。中華料理の店で月餅を2つ買った。1つが8ドルで、締めて1000円。買ってから、その高さに目を丸くした。
 ショッピングセンターの一廓にあるコーヒーショップに入り、妻がアイスコーヒーをたのむ。たどたどしい英語でゆっくりしゃべっても、なかなか言葉が通じないので妻はがっかりしていた。ショッピングセンターを一回りして、明日からに備えて早い目にホテルに引き返した。